金柑のはなし

昨日の朝、目が覚めたとき、久しぶりに「ああ、これは自分の身体だ」と感じることができました。それまでは、ウィルスに完全にのっとられていたのです。

でも昨日は、少し起きていただけで疲れてしまいました。わずか数日で、ずいぶんと体力が落ちてしまったようです。

まだしばらく療養期間ですが、少しずつ体力を戻していかないと、普段の生活には戻れないなあと、やや不安です。

症状も個人差があるようなので、いちばんしんどい時も、「いったいこれがいつまで続くのか」という不安がとてもありました。

 

症状のひとつで、のどの痛み、というものがありますが、これが最高潮であった時、いつも取りに行っているお野菜を玄関まで届けてくださった方がいて、その中に金柑がありました。

金柑を目にしたとたん私は、体の欲するまま、生のままの実をつかんで丸ごと口に放り込みました。夢中で皮を噛み破り、とびだした果汁が、喉の腫れた部分にびしゃっとかかり、しみることしみること。傷口に容赦なくマキロンをかけた時のような感じでした。しかし、痛みに耐えつつも、そのみずみずしい果汁は、まさに私が求めていたものであったと、感動すら覚え、もう一粒、もう一粒と、かぶりついたのです。

その後は、水筒に金柑を一粒いれたところに熱湯を注いだものを、手放さずにおいて、ちょこちょこと、水分補給をしていました。水筒のふたを開けたときの湯気を、口元に当てるだけで、幸福感を感じるような、アロマ効果もあり、しばらくお守りのようになっていました。そのおかげか喉に関しては、回復が早いように思います。

 

でも、いま考えると、もしかすると金柑でなくとも、梅干しでものど飴でもよかったのかもしれません。ただただ不安で、なにかにすがりたい気持ちであったことは確かです。